異文化コミュニケーション

日タイ交流大使(自称)

【台湾熱その1】おじさんから真ん中の肘置きを奪ったあの夏

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30分遅れで機内に案内され僕の席は前から2列目の通路側の席だった。

クーラーの効いた機内は観光客とおそらく台湾に帰国するのであろう人々でごった返していた。隣の窓際の席には30代後半であろう脂ぎったサラリーマン。

肘を両側の肘置きに置きスポーツ紙を一面に広げて遅延された出発時刻をイラつきながら待っている。僕は席に着き、数回そのサラリーマンと言葉を交わしてみたが答えはそっけなく、すぐにヘッドフォンを付けて新聞に目をやった。ヘッドフォンからスピッツのチェリーが漏れて聞こえてくる。

少し不快感を感じたが、すぐにかき消して僕も台湾のガイドブックを開く。すると、となりーマンが「食べ物は当たり外れがあるから気を付けた方がいいよ。」と上級者目線で愛想のないアドバイスをくれた。「ふーん」と気のないあいづちを打つ。リーマンも僕と同じように多少不快感を覚えただろう。

長らく本を広げていると、どうしても左の肘が疲れてくる。すると1つの欲に駆られる。「左の肘置きが欲しい・・・」。

だがご存じのとおりその肘置きは僕が席に着いてからというものとなりーマンに占拠されている。状況はかなり不利だ。そーっと相手の腕に当たらないように肘を置いてみる。そのままスーッと前の方に移動して肘が少し触れた。リーマンの肘から緊張が伝わってくる。

2、3回肘が触れると恐れおののいて肘は肘置きから逃げて行った。真ん中の肘置きというものは、両側の席の人が所有権を主張する。僕はそれを奪った。妙な解放感を感じてブラックアウトした。

「ライスポーク、ライスポーク」という大音量の謎の雑音に起こされた。機内食の時間ですか。

中華系のCAがそういいながら機内食を配っていた。謎のライスポークを早々にたいらげ、リクライニングを全開にして寝の体制に入った。後ろの席から中国語で猛烈な勢いでリクライニング批判が聞こえる。だが何を言っているのかわからないのでどうしようもない。先週のワンピースの展開を興奮して語っているだけかもしれない。

だから目を閉じてみた。その次に目を開けたのは台湾に着いたころだった。

飛行機から降りたらみんな別々の岐路に分かれて行った。これからこの乗客の誰にも会えないし、会っても気づかないだろう。

全く知らない他人と隣同士に座って時間を過ごす不思議な空間。

飛行機で隔絶された2人だけの空間を共有して、肘置きを取り合ったあのおじさんも大勢の人ごみに混ざると仲間のような、よきライバルのように思えた。5日も経てば僕はおじさんの事も忘れるだろう。

入国審査で目があった。何も言わないけど瞬間的に通じ合った。その後、僕は宿に向かうタクシーの中でチェリーをなんとなく歌っていた。